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​2023年11月発行わんわん通信No40コラム

​盲導犬のしあわせ

 昨年末、盲導犬のキャリアチェンジ犬のBちゃんを一般家庭から引き取りました。飼い主さんは、11年前に県外の盲導犬センターからBちゃんを家族に迎えたそうですが、里母さんが亡くなられ、里父さんも病気で身体が不自由になり、お世話ができなくなっているのをみかねた社協さんからの相談でした。

 様子を見に行った時のBちゃんは、ラブラドールの適正体重の半分以下の13kg。バスタオルを敷いた玄関の土間で排泄物にまみれてハエがたかっていました。下まぶたにある腫瘍がはじけて出血していて、耳から濃が出ているので耳をめくってみると、耳の穴いっぱいに成長している腫瘍が白く膿んで、強烈な悪臭をはなっていました。あまりの状態に一度帰って、急遽我が家で預かる体制を整え、改めて迎えに行きました。年末の寒さの中でしたが、車の窓を全開にしないと耐えられない匂いで、約2時間の道のりを震えながら帰りました。

 その後は、腎不全はあるものの、21kgまで体重が増え、腫瘍の切除手術で目も耳も獣医さんが驚くほどきれいになり、体中の毛がパサパサ抜けてからきれいに生え変わり、毎日喜んでお散歩にも行けるようになりました。と同時に、毎日ごく普通のお世話をしながらBちゃんの変化をみるにつけ、飼い主さんが身体を壊されるよりもずっと前から、当たり前のお世話や愛情を受けていなかったんじゃないかと思えました。

 飼った以上は天寿を全うするまで大切にお世話をするのは、どんな犬でも飼い主の務めです。でも特に盲導犬は、人間を助けるために繁殖し、トレーニングし、働いてくれている犬です。キャリアチェンジ犬は盲導犬として働くことはなかったですが、それでもそのために大切に育てたパピーウォーカーさんがいて、厳しいトレーニングにも臨んだ犬達です。その犬の末路としてBちゃんの姿はあまりにもひどい。確実に幸せにしてあげる責任は、飼い主さんはもちろんですが、盲導犬の育成・譲渡を仕事としてやっている盲導犬センターにもあるはずです。

 私はBちゃんが生まれた盲導犬センターに連絡を取りました。Bちゃんの譲渡は適切だったのか、譲渡後の飼育環境を確認するシステムがあるのか、譲渡先でお世話ができなくなった場合にセンターで引き取るなどの対応は可能なのか、等を確認しました。結果、譲渡条件は犬部と同じように基本的な医療や管理・お世話について規約を設けている。家屋状況なども申告してもらうが、実際に家に出向いての確認はしていない。やむを得ず飼育者が変わる時や、犬が死亡した時は協会に連絡をする、という規約は、Bちゃんの譲渡後に設定された。万一の時に代わって飼育してくれる人の申告も、Bちゃんの譲渡後にお願いするようになったので、協会が引き取るという対応は基本的にはないとのことでした。キャリアチェンジ犬においても、その犬生に盲導犬協会が最後まで責任を持ち続ける体制がなければ、また同じ不幸がうまれる可能性も充分あると感じました。

納得はできないながら、今後こういう不幸が生まれないように譲渡時の環境確認、譲渡後のフォローを再検討してほしいとお願いし、改めて体制を見直したいというお返事をいただきました。

 日に日に元気になっていたBちゃんですが、夏を過ぎた頃から腎不全が悪化して現在は立ち上がることも食べることもできなくなり、毎日皮下点滴とシリンジでの流動食で頑張っています。そんな中、亡くなった愛犬の使っていたものを寄付してくださった方があり、よくよく伺ったら盲導犬の引退犬だったとのこと。

Bちゃんとは別の盲導犬協会のボラとして、引退犬だけでなくパピーウォーカーもされてきたTさんは、Bちゃんの経緯を知って大変なショックを受けておられました。キャリアチェンジ犬に、いつかどこかでBちゃんのような不幸が起こるのではないかと心配していたそうです。Tさんも盲導犬協会は、キャリアチェンシ犬についても最後まで責任を持つべきだという考えで、Bちゃんのことをきっかけに、全国11ヶ所の音導犬協会にフォローの実態確認と、お願いの文書を出す準備をしてくださっています。

 犬は人間が喜んだり、人間の役に立つことに幸せを感じてくれる動物です。盲導犬が不幸だとは思いません。でも、多くの犠牲と負担は強いています。それに対して、盲導犬というお仕事を離れても、生涯守りきることは、人間側の欠かせない責任だと思います。Bちゃんの生き様に関わった者として、同じ苦しみが生まれないために、できることを考えていきたいと思っています。

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