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​2021年7月発行わんわん通信No34コラム

​多頭飼育崩壊に思うこと

 全国的に新聞やTVで報道されたのでご存じの方も多いかと思いますが、今年の5月11日に富士市の元ブリーダーの女性が、合計 109 頭の小型犬を劣悪な環境で飼っていたということで、動物愛護法違反の罪で逮捕されました。管轄の富士保健所は8年ほど前から把握して指導を繰り返し、3年前にはブリーダーの廃業にこぎつけたのですが、その後飼い主が保健所の介入を拒否するようになってしまっていたそうです。警察は情報提供を受けていてもなかなか動きがなかったのが、ここにきて急遽捜査・逮捕に踏み切ったために、犬たちも急遽救出となりました。

 県内のボランティアに説明会の案内が来たのは5日前。急なことで行かれませんでしたが、欠席の場合でも後日説明をするとのことだったので、改めて説明を聞いてから大部としてできる協力をしようと考えていましたが、実際はそんな悠長な状況ではありませんでした。説明会の後、祭日を挟んで翌々日に警察・保健所が現地入りすることが決まっていて、引き取り可能との意思表示をした県内外のボランティアが一緒に現地入りし、悲惨な現場から全頭を手分けして引き取ってくれました。


 このような多頭飼育崩壊は、富士市だけでなく全国あちこちで起こっています。劣悪な環境の中でひしめきあって、病気や障害を負いながら産まされ続け増え続けてきた犬が救い出されたと聞けば、多くの人が「ああよかった。これで犬たちは救われた。」とホッとするでしょう。でも、犬を引き取ったボランティアはそこからお金と労力をかけて一頭一頭のケアをし、2度と不幸にしない飼い主の元に渡すまでの苦労が始まります。そして、それだけの苦労をして引き取っても、いつの間にか元の飼い主がまた新たに犬を増やし始めていることも珍しくないのです。悲惨な状態の犬たちを救い出すことが、一方で安易な多頭飼育や悪徳商売を続けることを可能にしてしまう。だからといって悲惨な状況の中でかろうじて生きている犬たちを見過ごせない…。そういうジレンマの中で犬たちは助けられているということを、知ってほしいと思います。


 ここまでの状態になっても、なぜまた繰り返すということが起こり得るのでしょうか?犬を、ただただ人気の子犬を産ませて売るための道具としか考えていない繁殖屋や悪徳業者は、金儲けのために尽きると思います。でも一方で、「犬が好き」「かわいそう」「自分が助けてあげたい」という気持ちから増やしてしまう「アニマルホーダー」と言われる人たちも多くいます。どんどん増える動物に空間的にも金銭的にも人間の生活が脅かされていっても、動物たちが「助ける」とは程遠い劣悪な状況にあっても、そういう自覚がなく手放したくないと思っている人たちです。今の法律では、この人たちを逮捕しても刑罰を科しても、また動物を飼う権利を奪うことはできないのです。


 以前のコラムにも書きましたが、「保護犬」「保護猫」を飼うことが一種のブランドのようになっている今、私たち一人一人も「かわいそう」「助けたい」という気持ちで突っ走らずに、今の自分にとって最期まできちんと守ってあげられるキャパはどれくらいなのか、を冷静に判断することこそが「保護」です。そういう意味で、一番気をつけなければならないのは、私たち保護活動者かもしれません。「何とか助けたい」「自分が助けなければ」という思いからキャパを越え続けて崩壊してしまうボランティアは珍しくありません。

 

 シェルターを持たない犬部は、基本的に預かりは1軒に1頭を守っていきたいと思っています。当然犬部全体で預かれるキャパは現在7~8頭。今回の多頭崩壊のレスキューに参加できたとしても2~3頭しか引き受けられなかったでしょう。遅々とした活動でもどかしくはありますが、キャパを越えないことは団体としての一番の責任だと私は思っています。


 今回の飼い主は罰金20万円の判決。ブリーダーであったにも関わらず、犬たちを登録も狂犬病予防注射もしていなかったことについては、不起訴でお咎めなしです。動物に対する人間の責任があまりにも軽く扱われていることにガッカリすると共に、皆さんに現実を知ってもらって声を上げていくことも本当に大切なことだと実感しています。

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